2004年3月19日


ナガノ最後の夜。
けんじくんとこの部屋で過ごせるのも、今日が最後。
彼は、昨日・今日とスキルアップのための試験で、普段よりも早い時間に開放された。
で、そのまま、ウチへ。
荷造り用の段ボールが足らなくなったので、スーパーを巡ってもらった。
感謝。
最後だってわかっているはずなのに、実感はイマイチ湧かなかった。
一緒に浴びる、シャワーも最後。
疲れが溜まっていたのか、けんじくんは寝てしまった。
けんじくんがこのベッドで寝るのも最後。
けんじくんの寝顔もいびきも最後。
わたしはわたしで、けんじくんが寝ている間に夕食の準備に取り掛かる。
本日は、冷蔵庫一掃メニュー。
冷凍してあった手羽元を照り煮にし、
これまた冷凍してあった、豚やら豆腐やらしいたけやらが入った肉団子のタネを、味噌汁の具材に。
買い置きのこんにゃくと野菜を炒めて。
少々高カロリーですが、最後の晩餐に免じて。

『じゃぁ、そろそろ行くか』
と、けんじくん。
元々、夜は予定があったらしく、早めに帰ると言っていたので。
しぶしぶ。
『なおみさんのとこに挨拶に行きたいから、途中まで乗せてって』
『あーうん、いいよ』
と、快諾してくれた。
少しでも長く一緒にいたい。
『どうやって行こうかな。ここからだと須坂の方が近いか』
『ん? どこ行くの?』
『夜景観に行くって言ったろ?』
確かに言ったけど、憶えていてくれるなんて思わなかったし、
用事があるから無理だと思ってたのだ。
うれしいな、うれしいな。
急上昇で化粧をして、マジェスタに。
もう当分このマジェスタにも乗れないんだなぁ。
下手したら、次にけんじくんに会うときにはマジェスタは売られてるかも知れない。

助手席のわたし、隙を見計らってバッグの中から手紙を取り出して、
そっと後部座席に落とした。

姨捨の夜景はやっぱりきれいだ。
その日は星も綺麗で、見上げても見下ろしても、美しかった。
『ハイ、プレゼント』
そう言って、小さな紙袋を渡された。
渡した途端けんじくんは車に走り戻ってしまったので、慌てて追いかける。
車の中でそっと包みを開けると、
そこには指輪があった。
しかも左手の薬指にぴったりサイズ。

なんだか安っぽいドラマみたいだけど、
目論見通り泣けてしまった。
最近の彼はパチンコ熱が再発して、しかも負け続けているのでお金なんてないはずだったから、
指輪なんて本当にもらえるとは思わなかった。
『金なくてさ、本当に安物で申し訳ないんだけど』
それでも嬉しい。嬉しい。
『しかも18金じゃなくて14金なんだよ。残りの4は愛でカバーってことで(笑)』
気付けば、ブレスレットもネックレスも指輪もイワク付きと化していて、
更に全部ホワイトゴールド。
これらがけんじくんの代わりに、これからのわたしを支えてくれるだろうか。

大通り沿いのセブンで降ろされる。
『早く帰るんだろ? 帰り電話しろよ』
って。
元仕事場近くの、大通り沿いに停めた車の中で。

なおみさんに挨拶をして、偶然ゆきさんたちにも会えて、
本当は飲んでいきたかったけど、今日は荷造りをしなければいけない。
早々におイトマして、最後にアーケードまで歩くことにした。
金曜だからか、顔見知りに何度も会った。

タクシーに乗って、けんじくんに電話を。
『お前は旅立つ側だからまだいいよな』
それは分かる。痛いほど。
残されて、それまでと変わらない環境で、そのひとだけがいない環境で、
暮らさなければならないことの淋しさ。喪失感。
『でも自分には彼女がいるじゃん』
『ばーか』
タクシーはわたしを無事に部屋まで届けてくれて、
わたしはさっきまでけんじくんといた部屋に帰ってきた。
けんじくんも既に自宅。
『寝なくて平気?』
『眠いけど・・・、喋っていたい』
ずっとずーっと、繋がっていたい。
『そういえば、お前忘れ物しただろ。車の中に』
『え、なに?』
『後ろのシートの下に』
『・・・あ、見つかっちゃった?(笑)』
わたしがナガノから出た後で、読んで欲しかったんだ。
あらら。
『泣いちまった』
と、予想通り。
“今までありがとう”
『俺も感謝してるよ』
“いっぱい笑わせてくれてありがとう”
『俺もいっぱい笑わせてもらったし』
“支えてくれてありがとう”
『お前は俺の支えでもあった』
“でも、わたしじゃ彼女を超えられないことを思い知らされました”
『そんなことないよ』

応答がどんどん遠退いていったので、電話を切った。
今日はありがとう。
今日もありがとう。
今日までありがとう。



【お買い物なら楽天市場!】 【話題の商品がなんでも揃う!】 【無料掲示板&ブログ】 【レンタルサーバー】
【AT-LINK 専用サーバ・サービス】 【ディックの30日間無利息キャッシング】 【1日5分の英会話】