2004年1月25日


わたしのことを最低だって思ってくれて、構わない。
軽蔑してくれたって、構わない。
むしろ軽蔑して下さい。
こんな女だから、こんなことされるんだって、批難して下さい。
もうそんな気分で。
知らなくていいことだったのかも知れない。
あぁ。どう思いますか?

けんじくん。
今日は新年会で、2時半に仕事終り。
翌日は夕方から墨入れに行くって聞いてたし、もしかしたらうちに泊まってく?なんて。
飲み屋街はけんじくんちよりわたしのうちの方が近い。
仕事が終って電話をくれて、おうちに着いて電話をくれて、出発のときに電話をくれて。
会いたい。
仕事場で、日付けが変わった頃、電話が鳴っていた。
『まだ終らない?』
『わたし1時までだもん。あ、終るまで待っててよ』
なんてつい、言ってみた。冗談だったのに、
『じゃぁセブンで待ってる。早く来いよ』
仕事が終って即効、後片付けも適当に走る。
『ごめんね』
電話で謝りながら。
会えた。
だいぶ飲み過ぎて辛そうなのは目に見えた。
『お前おせぇよ。もう迎え呼んじゃったし、俺すぐ帰るからな』
仕方ない。
水を買ってあげてしばらく休憩していたら、女の子がセブンに入って来る。
ギャルな感じの。
『あー、ナニしてんの? 飲み過ぎ? だいじょぶ?』
なんて普通にけんじくんに話し掛けるものだから、
他人のフリして立ち読みに没頭。
『迎え待ち? なに? まいこちゃん?』
けんじくんの低い声はほとんど聞こえなくて、女の子の声だけが聞こえた。
“まいこちゃん”
女の名前が出て来るなんて思わなくて、なんか嫌で、この場を立ち去りたくて、お茶を買って帰ろうとしたら。
女の子はセブンを出て行き、けんじくんが近付いて来た。
『あれ、うちの兄貴の彼女。ちなみにお前より若い』
ふーん。
じゃぁ“まいこちゃん”は誰よ、は聞けなかった。
無視してセブンを出る。けんじくんが付いて来る。
『あ、兄貴いるわ。ホラ、あれ。うちの兄貴』
指差した先に車。運転席には金髪の男のひと。助手席にはさっきの彼女。
目の悪いわたしにはよくわからなかったけど、けんじくんより若く見えるお兄ちゃんらしい。
『もうすぐ迎え来るからお前先帰れよ』
『いいよ、見送る』
セブンに戻って、迎えに呼んだ“後輩”に電話をかけているらしいけんじくん。
わたしの所に来て、
『お前が来るのがおせぇから迎えのやつ来ねぇじゃねーか』
『はぁ?』
『電話しても出ねぇんだよ。お前んち帰るぞ』
『ナニ勝手に決めてんだよ』
『あーそうかいそうかい。じゃぁここから歩いて帰りゃぁいいんだろ、そうするよ』
・・・もう。
『ホラ、帰るよっ』
手を引いて、タクシーを止める。
タクシーの中でけんじくんにお兄ちゃんから電話。
セブンで見られたことを口止めするかのように、
『俺はこの世に存在しなかったってことで・・・(笑)』
・・・そのときはおかしなこと言ってるな、って思ったけど、今思うと・・・意味がわかる。
うちに着いた途端、けんじくんは爆睡。
その直前。
『お前がいるから俺は癒されるんだ』
そう言われた。
『お前じゃなきゃ駄目だけど、そんなこと言ったら俺はダメになるし、お前を縛ることになる』
『わたしが縛られてもいいって思ってても?』
『じゃぁ縛ってやる』
『・・・どんなプレイだよ(笑)』
なんて会話の後、
『お前いい女だなぁ。結婚しちゃいたいなぁ』
なんて言われたので、
『じゃぁ子供が出来てたら結婚しちゃう?』
なんて言ってみたら、
『子供が出来てたら生活していけねぇだろうが』
と怒られたので、
『じゃぁ・・・子供が出来てなかったら、結婚する?』
と言ってみた。
メイクを落としに部屋を出ようとしたわたしに向かって、
『そんなに結婚したいの?』
『したいよー』
そう答えてメイクを落とし、部屋に戻ると既にいびき。
ちゃんと布団をかけて、冷えピタを貼ってあげて。
おつかれさま。

・・・軽蔑して下さい。

見てしまった。
彼の携帯の中。着歴。メール。写真。
不安だったって言うよりも、確かめたかった。
信じてたんだ。

軽蔑して下さい。
わたしは最低です。

少なくとも去年の夏から付き合ってる彼女がいた、ようだ。
御丁寧にわたしからのメール、わたしへのメールは全部消されてて、
っていうよりそれ以前にわたしのメモリは名字に“さん”付けで。
彼女のお腹には赤ちゃんがいるかも知れなくて、
ウエディングドレスを着てる写真もあった。
それから、彼女の寝顔。2ショットの写真。
そして彼女の名前はやっぱり、“まいこ”ちゃんだった。

普通にかわいいひとだった。
怒りなのか悲しみなのかわからない。
布団に戻って、背中にけんじくんの体温を感じながら、起きていたともにょんとメールをして、
なんだか涙が止まらなかった。

わたしのことも本気だって信じたいけど、ずるいよね。
わたしはまるっきり、全身全霊で信じきって頼りきってたのに。
ちょうどいい存在だったんだろうな。
出会いも軽くて。
別れも、わたしが実家に帰るからって、なんだか“しょーがない”的理由があって。
一時の遊びにはちょうどいい存在だったんだろうな。
わたしなんて、メールと一緒ですぐに消してしまえるような存在だったんだ。

意外と心は穏やかで、冷静。
涙は止まらないけど。

あの理不尽な別れも何もかも、全部本当の彼女がいたからなんだよね。
そう考えたら納得できることが多くて。
春になったらわたしは消えて、またけんじは彼女だけになれるんだ。
けんじのためを思ったら、わたしはやっぱりナガノにいるべきじゃないね。
けんじのためにも、わたしのためにも、本当の彼女のためにも。

あーぁ。

けんじくんが目を覚まして、わたしを抱き締めようとしてくる。
腹が立ったし、吐きそうだった。
“俺たちの子供”が頭の中で回った。
『何怒ってるの?』
『別に』
『なんだよ急に』
『他に女がいたんだね』
つい言ってしまった。
『やっぱりわたしなんてどうでも良かったんだ?』
『他に女がいたら、そりゃしょうがないよねぇ』
『お前だけ、なんて嘘っぱちじゃんね』
静かに冷静に、捲し立ててしまった。
『何を根拠に言ってんの?』
『・・・寝言言ってたよ』
『あぁ、他の女の名前でも言ってた?』
『さぁね。後はわたしの想像』
『よくあることじゃん。俺この前寝言で“あずみ”って言ってたらしいよ(笑)』
そんな嘘、聞きたくない。
『帰ろうかな、俺』
『あぁ、そうやって逃げるんだ? あんたが“帰る”って言い出す時って、自分に不利なこと言われたときだもんね』
『もう会わない方がいい?』
『なにそれ。なんでいつもそうやって選択権をわたしに渡そうとするのよ。
わたしが会わないって言ったらそれでもう会わないわけ?
わたしってそんなもんだって認めてるようなもんじゃん』
『いっつも言ってるじゃねーか。他に女がいないわけじゃないって。女なんて山ほどいるって』
『あぁそうね。そうやって常に自分の逃げ道作ってたんだもんね。
最初からそう言ってて、イザって言うときはその冗談も本当にすればいいだけだもんね』
『なんなんだよ、お前』
『こうやってわたしが言ってたら、面倒な女だって思ってわたしから離れる?』
『離れて欲しいの?』
『ううん。言ったでしょ、全部わたしの想像よ』

なんでだろう。
“まいこ”ちゃん愛用の腕枕は、わたしにも安心をくれて。

『お前だけだよ』
なんて。嘘? 本当?

朝、彼の電話が鳴って、二人で起きた。
『用事?』っていうわたしの質問には、曖昧にしか答えなかった。
タクシーを呼んで、見送る。
電話をしようか迷ったけど、“まいこ”ちゃんに電話をするヒマを与えてあげることにした。
電話催促のメールが入ってくる。
電話。
『あんまり気にするなよ、たかが寝言じゃねーか』
『お前に言われたかねぇよ、ふざけんな』
そんなやりとりを繰返す。
『好きだよ。大好きだ』
そんなこと言わないでよ。
『わたし、イロイロ考えたのよ。もしかしたら最初から他に女がいたのかも知れない、とか。
仕事とかそんなのじゃなくて、他に女が出来たから別れたんだ、とか』
『少なくとも俺は、お前と出会った頃はお前だけだったよ。
真剣に恋してた。今でもそうだ』
信じていいの?
という思い半分、シラケ半分。
騙されてるの分かってて冷淡な顏して聞いてるわたしと、分かってるのに信じちゃうわたし。
ぐちゃぐちゃ。



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