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作り話
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JET戦兵―作り話


五月病雑文祭 」(別窓)参加文章。

<ルール>
1.五月病をテーマにしていること。
2.「鬱だ」で始まること。
3.最後は「死のう」で締めること。
4.作品中に、最近3日以内(書いた時点で)に自分が実際にやった行動を入れること。

2003/5/13(月)
   逃避

「欝だ」

男は呟いた。発した本人以外聞く者の無いその声は、四方の壁に軽く反射しながら床に落ち、毛足の長い高そうな絨毯に吸収された。

豪奢で使い心地の良い家具。一生飢える事のない十分な食料。一生退屈しないだけの本やその他の娯楽品。それらと共に男がこの部屋に閉じこもってもう随分になる。金に飽かして作ったその部屋は、窓が一つも無く、分厚い壁で外界からは完全に隔絶されていた。男は極端な人間嫌いであったのだ。

男の財産に引かれ群がる者たちの顔を見るのも、声を聞くのも苦痛だった。一人静かに、心穏やかに暮らす事だけが男の願い。そうして男はこの部屋に閉じ篭ったのだ。初めのうちはこの部屋に入りたがる者がひっきりなしに訪れたが、決して開かれる事の無い分厚い扉に阻まれ続け、今では誰一人この部屋の静寂を破ろうとするものは居ない。

長らく求めていた静かな生活。それは幸せなことに違いなかったのだ。しかし。長すぎる孤独はやがて男に苦痛をもたらし始めた。人目に晒される緊張から解き放された顔面の筋肉はだらしなく弛み、笑顔を作る事さえ出来なくなった。鏡に映るのはいつも憂鬱な表情を浮かべる精彩を欠いた醜い顔。人と語る必要から解き放たれた喉は声を発する術を忘れ、そこからは掠れた力ない声しか出なくなっていた。だが何より苦痛に呻いていたのは、声でも顔でもなく、男の精神であった。

独房に閉じ込められた男が徐々に精神に異常をきたしていく。そんなシーンを昔映画で観たのを思い出す。

「孤独に耐えられないとは随分神経の弱い男だ。私ならむしろその状況を喜んでみせるのに」

その時男はそう笑い飛ばしたのだった。しかし死ぬまで続くであろうこの孤独の辛さは、男の想像以上であった。向かうべき対象を一切失った思考はことごとく自分の内側へと向かい、男の気分をどんどん滅入らせていく。滅入りきった気分を発散させる会話の相手もいない。

「欝だ」

もう一度、弱った喉に力を込めて男ははっきりと声を出す。その自分の言葉に後押しされるかのように、男は一つの決心をした。

 この部屋から出よう。

一歩外の世界へ踏み出しさえすればこの孤独から逃れられる。
男はゆっくりと部屋の唯一の出入り口へと向かった。固く閉ざされていた重い扉に手を掛け、力を込めて押し開き、地上へ出る。

眼前に広がるのは荒涼とした大地。誰も居ない、何も無い世界。

高濃度の放射能に満ちた空気を全身で浴び、腕を広げ肺一杯に深々と吸い込むと、男は晴れやかな顔で呟いた。

「死のう」


あっ!!しまった。5月病をテーマにしていない。ええと。あの。その。この話の時期は多分5月なんです。そういうことにしといてください。(哀願)

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